ヴァイオリンカフェ

ヴァイオリンという楽器について、主にその誕生について調べています。

フランス王室とヴァイオリン

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"Altar of the chapel of Versailles, the very spot where Marie Antoinette married Louis XVI" byJorge Lascar is licensed under CC BY 2.0  

ヴェルサイユ宮殿の王室礼拝堂

 

アンドレア・アマティがサン・ファウスティーノに工房を開き、息子のアントニオも一人前の職人になっていた1560年代。フランス王シャルル9世のために楽器がつくられました。大小2つのサイズのヴァイオリン24挺、ヴィオラ6挺、チェロ8挺、全部で38挺あったと言われています。弦楽アンサンブルもできるほどの楽器です。新しいヴァイオリンという楽器はどのように使われたのでしょう。当時のフランス王室の音楽環境に注目してみました

 

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アマティ家 〜クレモナ派の創始者一族の200年〜

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"Cremona - Piazza Roma" by Simone Ramella is licensed under CC BY

 

写真右奥に見える建物のある一角は、様々な職人達の集まる職人街でした。アマティ家ほか楽器製作者たちの工房もここにあったのです。

ヴァイオリンを完成された形に作り上げたアンドレア・アマティ。クレモナのヴァイオリン製作の街としての歴史がここから始まります。

 

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アンドレアはどこで誰のもと弦楽器製作の修行をしたのか?

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"A woman sits working at a spinning wheel as a man works at the table making a violin. Wood engraving by C & H after HH."is licensed under CC BY 4.0

 

アンドレアはどこで誰のもと弦楽器製作の修行をしたのか? 

    前回、クレモナのアンドレア・アマティがヴァイオリンを完成された形にまとめ上げた、アンドレアが工房を開くまで、クレモナに公式には弦楽器製作工房はなかった、と書きました。では、アンドレアはどこで弦楽器製作の修行をしたのでしょう?

 

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誰が最初にヴァイオリンをつくったのか?

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最初にヴァイオリンを作ったのは誰?

どうやってヴァイオリンは誕生したの?

    答えを見つけようと、私は「何か判りそう」「関係ありそう」と思う本や資料を集めてきました。

    今日からは改めてそれを見なおして、解っていることを確認し、不明なことや疑問に思うことを整理していこうと思います。この作業をきっかけにヴァイオリン好きな方々と情報交換、意見交換ができたら嬉しいです。

 

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ヴァイオリン誕生の秘密にせまる3冊+1 (その4)

プラス1といっても オマケではありません、ボリュームも信頼度も抜群の音楽事典

 

ニューグローヴ世界音楽大事典

日本語版 監修 柴田南雄/遠山一行

講談社(文献社)より出版

 

おすすめの本に事典を入れるのは、ちょっと反則のような気もしますが、どうしても紹介したかったのでプラス1としました。

全21巻、 別巻2巻、作曲家年表1、の大型本です。

本当におすすめなので、ぜひ図書館で使ってみてください。たとえば好きな楽器について、たとえば気になっている国の音楽について。知りたいことの殆どか、もしかしたら知りたい以上のことが見つかると思います。日本語なのでナナメ読みや拾い読みも出来ます。署名記事で参考文献一覧もあります。オリジナルは英語。

 

どんな感じかフィドルの項を例にご紹介します。

見出しはカタカナで「フィドル」、続いてヨーロッパ各国語での記載があります。fiddle とか fedyleとか、英語でも6通り、他にドイツ語、フランス語、ラテン語、ノルウェー語、スペイン語、全部で17通り。これだけあるのは特別かもしれません。

次に、「フィドル」についての概要と資料に関する解説、以降の記述を読むにあたっての前置きです。

そして、点線に囲まれた目次があり、本文が始まります。1. 命名法、2. 構造、3. 調弦、4. 弓、5. 演奏の姿勢、6. 歴史的発達、7. 職業フィドル奏者、8. 典礼および劇中での使用、9. 祝宴と舞踊、10. レパートリー。

見出しから本文の終わりまで5枚の画像含めて4ページ以上あります。3段組で活字も小さめなのでなかなかの量です。

ある程度、知っている項目を引いてみれば、この事典のスタイルや詳しさの度合いが解ると思います。

 

日本語で読めるのが嬉しかったのですが、ひとつとまどったことがありました。

ヴァイオリン製作者としては、とても有名な一族 「Guarneri」 を引こうとした時のことです。ストラディヴァリと並んで有名な通称「デル・ジェス」もこの一族です。

はて、カタカナ表記どうなるんだろう。日本語訛り?だとガルネリに近いけれど、これはないでしょう。えーと、ローマ字読み風にグァルネリでいいかな。あれ、無い。そう書いてあるの、見たことあると思うけどな。無いとは思うけどガルネリも見てみようか。やっぱり無いか。まさか、見出し語に無いとか?そんな筈ない。それはない。アマティもストラド(ストラディヴァリ )もあってGuarneri がないわけない。なんで? 見落としした?もう一回グァルネリみてみよう。うーん、無い、無い、無い!

で、どうしたかと言いますと。

索引です。五十音順の事典の最後の第21巻、索引。ここ21巻には和文索引(五十音順)、欧文索引(アルファベット順)、音楽用語一覧が載っています。この欧文索引でGuaruneriを探しました。 

Guarneri、Guarneri、、、おっGuadegnini、、今はこれじゃない、もっとあと、もっとあと。あ、有った!やっぱり有った!無い筈ないと思ったけど。「グヮルネリ」だって。今どき外国語とはいえ小文字「ヮ」を使うのか。気がつかなかった、、、

 

もし、日本語表記がビミョーで原語のスペルがわかっているなら、欧文索引を使う方が早いかもしれません。一般的には有名でなく、特に原語が英語でない人名などは複数の日本語表記があり得るので。

実際、日本語の本では、ガルネリも、グァルネリも、グヮルネリもありました。今手元にある本ではグァルネリ表記が多かったのですが、イタリア語からの翻訳本ではグヮルネリでした。もともと別の言語を無理に日本語表記にしているのですから、仕方ありませんね。

 

和文索引では、見出し語のページだけでなく、他の項目で言及されている箇所も出てきます。表記が分かっていても、項目によっては索引を使う価値があるかもしれません。索引、大いに活用しましょう! 

ヴァイオリン誕生の秘密にせまる3冊+1 (その3)

ヴァイオリンとフィドルとどう違うの?

 

フィドルの本 あるいは縁の下のヴァイオリン弾き

茂木 健

音楽之友社  初めて音楽と出会う本

 

「フィドルとヴァイオリンはどう違うのか」。年に数回だが、こう質問されることがある。「使われている楽器には何の違いもないけれど、奏法が少し異なってます」と答えてから、「素面で演奏するのがヴァイオリンで、酔っ払って演奏しても一向にかまわないのがフィドル」と補足すると、たいがいの人が、なるほどといった顔をしてくれるので、おのずと答えも紋切り型となってしまった。ふと考えてみる。なぜ、こんな答えで納得してもらえるのだろう? (はじめに より  本書2ページ)

 

ヴァイオリンとフィドルは同じ楽器とは知っていましたが、引用部分を読んで私も「たいがいの人」の反応をしてしまいました。最大公約数的なイメージなのでしょう。

もっともヴァイオリンも誕生のころは、貴族や高貴な方々が嗜みとして弾くリュートやヴィオールと比べられて、音色が硬い、音が大きすぎる、卑しい楽器、楽師の楽器と思われ見下されていたようなのですが。

 

中世には、やはりフィドルと呼ばれる弓奏の民俗楽器がありました。著者はフィドル=ヴァイオリンとなる前の各種の民俗フィドルを混同しないよう「祖型フィドル」としています。その後、16世紀前半にヴァイオリンが登場、民衆はこの新しい楽器に飛びつきます。そして、それまで楽しんできた楽器と同じ名で呼ぶようになったのではないかと著者は考えました。

 

フィドル=ヴァイオリンは世界各地の民衆音楽に取り入れられていきました。

著者は地域を分けて各地のフィドル音楽を紹介しながら、それに絡めてヴァイオリン/フィドルの二極分化、ジプシーの音楽やクレズマーとの関わり、新世界でのフィドルの受容と変遷などを考察しています。

民俗音楽ファンなら、きっとどこかの章で、もしかしたら全部の章で、ワクワクドキドキが体験できることでしょう! 巻末にはディスコグラフィーもついています。

 

ディスコグラフィーで思い出しました。私にとってCDのライナーノートはとても楽しみで貴重な資料でした。特にクラシックやワールドミュージックのそれは充実したものが多く、楽曲や演奏者について詳しく書かれていたり、歌詞に対訳までついていたり。ヴァイオリニストの使用楽器(もちろんヴァイオリンですね、製作者名と製作年が示されます)が記されていることも。

 

横道に逸れてしまいました。「フィドルの本」に戻りましょう。

ヴァイオリン誕生について考えるにあたって興味深かったのは、ペンギン歴史的俗語辞典(The Penguin Dictionary of Historical Slang )を参照してフィドルの語義の変化を見るところです。

フィドルという言葉の意味やこの語を含む言い回しのイメージが変化していったことから、この楽器を取り巻く状況やその変化を推測しています。

これは他所ではみられないアプローチかなと思いました。

 

フィドルが好きな人も、ヴァイオリンが好きな人も、きっと楽しめる1冊です。

ヴァイオリン誕生の秘密にせまる3冊+1 (その2)

 ヴァイオリン製作とドイツの製作者に関心のある方はぜひ!

 

「ヴァイオリン」

無量塔 藏六著

岩波新書 E58

 

著者はドイツでヴァイオリン製作を学び日本人として初めてマイスターになりました。

ドイツでマイスターというのは国家資格で、その道の名人や巨匠に対する単なる尊称ではありません。英語ならマスター、イタリア語ならマエストロですが、日本語になるとそれぞれニュアンスや使いどころが違ってしまいますね。

ドイツではこの資格がないと自分の店を持ったり弟子をとったり出来ないそうです。

 

この本で著者は、製作者としてヴァイオリンの構造や材料、製作について自身の経験なども交えて解説や考察をしています。「ヴァイオリンに用いられる材木 (1) 」「力木と魂柱」「装飾細工の話」「ワニスについて」などなど。

これを読んでヴァイオリン製作に関心を持ったり、製作家を志したりした人は少なからずありそうです。

 

ただ、それだけではありません。

 製作関連の内容ばかりではなく「名匠の遺跡をたずねて」「四弦による五度調弦楽器の開眼」「ヴァイオリンの製作地」「ミッテンワルド」「マイスター制度」「日本のヴァイオリン制作史」など興味深い章が並んでいます。この辺りの内容は他のヴァイオリン関連の書籍ではあまり見られないものではないでしょうか。

 

著者はあとがきで自身が「〜ドイツびいきになっていると思います。その点、お許し願いたいと思います。」としていますが、ヴァイオリンやその製作者製作地についての記述は ( 少なくとも日本語で読めるものに関しては ) イタリア中心であることが多いので、ドイツ語圏の情報は貴重です。

ヴァイオリンの誕生がイタリアだとしても、弦楽器製作の歴史においてドイツは重要です。初めて弦楽器製作者のギルドが出来たのもドイツです。ヴァイオリン誕生前夜のこと、誕生の背景を考えるにあたってアルプス以北の地域のことを抜きにはできないと思います。

ドイツびいき、ありがとうございます!と言いたい1冊です。