ヴァイオリンカフェ

ヴァイオリンという楽器について、主にその誕生について調べています。

ヴァイオリン誕生の秘密にせまる3冊+1 (その3)

ヴァイオリンとフィドルとどう違うの?

 

フィドルの本 あるいは縁の下のヴァイオリン弾き

茂木 健

音楽之友社  初めて音楽と出会う本

 

「フィドルとヴァイオリンはどう違うのか」。年に数回だが、こう質問されることがある。「使われている楽器には何の違いもないけれど、奏法が少し異なってます」と答えてから、「素面で演奏するのがヴァイオリンで、酔っ払って演奏しても一向にかまわないのがフィドル」と補足すると、たいがいの人が、なるほどといった顔をしてくれるので、おのずと答えも紋切り型となってしまった。ふと考えてみる。なぜ、こんな答えで納得してもらえるのだろう? (はじめに より  本書2ページ)

 

ヴァイオリンとフィドルは同じ楽器とは知っていましたが、引用部分を読んで私も「たいがいの人」の反応をしてしまいました。最大公約数的なイメージなのでしょう。

もっともヴァイオリンも誕生のころは、貴族や高貴な方々が嗜みとして弾くリュートやヴィオールと比べられて、音色が硬い、音が大きすぎる、卑しい楽器、楽師の楽器と思われ見下されていたようなのですが。

 

中世には、やはりフィドルと呼ばれる弓奏の民俗楽器がありました。著者はフィドル=ヴァイオリンとなる前の各種の民俗フィドルを混同しないよう「祖型フィドル」としています。その後、16世紀前半にヴァイオリンが登場、民衆はこの新しい楽器に飛びつきます。そして、それまで楽しんできた楽器と同じ名で呼ぶようになったのではないかと著者は考えました。

 

フィドル=ヴァイオリンは世界各地の民衆音楽に取り入れられていきました。

著者は地域を分けて各地のフィドル音楽を紹介しながら、それに絡めてヴァイオリン/フィドルの二極分化、ジプシーの音楽やクレズマーとの関わり、新世界でのフィドルの受容と変遷などを考察しています。

民俗音楽ファンなら、きっとどこかの章で、もしかしたら全部の章で、ワクワクドキドキが体験できることでしょう! 巻末にはディスコグラフィーもついています。

 

ディスコグラフィーで思い出しました。私にとってCDのライナーノートはとても楽しみで貴重な資料でした。特にクラシックやワールドミュージックのそれは充実したものが多く、楽曲や演奏者について詳しく書かれていたり、歌詞に対訳までついていたり。ヴァイオリニストの使用楽器(もちろんヴァイオリンですね、製作者名と製作年が示されます)が記されていることも。

 

横道に逸れてしまいました。「フィドルの本」に戻りましょう。

ヴァイオリン誕生について考えるにあたって興味深かったのは、ペンギン歴史的俗語辞典(The Penguin Dictionary of Historical Slang )を参照してフィドルの語義の変化を見るところです。

フィドルという言葉の意味やこの語を含む言い回しのイメージが変化していったことから、この楽器を取り巻く状況やその変化を推測しています。

これは他所ではみられないアプローチかなと思いました。

 

フィドルが好きな人も、ヴァイオリンが好きな人も、きっと楽しめる1冊です。